【リテイク可≠リテイク推奨】リテイクではなく編集で対応した方がメリットがある理由とは?

2022年8月13日

目次

100点の作品目指して無駄な修正してない?

昨年、こちらの記事をリリースしてから大好評!

「目からウロコでした!」
「どこまで注力すれば良いのかわかるようになりました」
「100点を目指しすぎてしまいそうになるとき、この記事を思い出します」

と、Twitterやメールでたくさんのご感想をいただきました。
非常に多くのサークルさんにとって、「あるある」なことだったんだと思います。

同じ時間で多くの収益を得るハウツー!100点の作品目指して無駄な修正してない?

この記事では、<同じ時間でより多くみんなで収益を得るコツ>として、リテイクを例にとり以下の考察を行いました。

大事なのは、いかに短い期間でこなし、それを年に何回繰り返せるのかということです。(回転率:回転が高いほど、この繰り返しの回数が多いというザックリ理解でOKです)
結果的には、意味のないレベルの改善や修正を1作に繰り返すよりも、比較にならないほどの売上・利益が継続的に、より手間が少なく入ってくることに繋がります。

「ここからはもう売上に繋がらない、無駄な改善や修正だ」と見極めることが重要です。

粗探しを始めようとしたときは要注意、黄色信号です。
「売上に対するプラスの影響が大きく見込める、ROI(投資対効果)が高いもの」のみに絞って行うことを心がけましょう。

もちろん、兎月起因のリテイクは無償で行っていますし、もちろん、兎月起因のリテイクは無償で行っていますし、有償リテイクも非常に低い確率で発生するのは当然と捉えていますが、「そのリテイク、本当にROI良いのかな・・・?」と思うことがあるのは正直なところです。
過去にご依頼をくださった方には、ふと兎月側からその点をさりげなく言われた方もいらっしゃると思います。
多くの場合、そうしたときには「自分も結構手間かかるし、別に編集10秒で修正するだけで済む話だった!」という答えになりましたよね!

この執筆から約1年。
さらに”リテイク”について、宅録/スタジオ(立会不可)の場合に起こりがちなデメリットを考察し続けていました。
今回はその集大成として、[リテイクではなく編集で対応した方がメリットがある理由]をお送りしてまいります。

立会無し収録。メリットとデメリットは?

そもそも……

宅録(声優が自宅で収録を行うパターン) or 立会が無いスタジオ収録(声優だけがスタジオに行って収録をするパターン)では、
・リアルタイムでサークルが音声をチェックすることが出来ない
これは明確にデメリットということができるでしょう。

一方、私自身こうした方式専門で行っている同人声優として、以下のメリットがあると考えています。
・台本としか向き合わないので凄まじく集中でき、声優がキャラクターに憑依できる
・声優がスタジオへ出張する交通費/拘束時間分の請求をしなくて良い分、安い価格で収録ができる
・(宅録の場合)スタジオレンタル費用がないため、その分だけ制作費用が安くなる
・もし想定外に収録時間がかかってしまっても、スタジオレンタルの延長や取り直し、リスケをしなくて良い
・声優もサークルも、立会無しなら感染症対策を気にしなくて良い

リテイクをせずに編集で吸収しよう!

立会無しではスタジオ時間に拘束されないため、リテイクはしやすい特徴があると思います。

しかし、
・抜けても問題があまりない台詞の抜け漏れ
・欲しい素材の秒数が若干足りない、多い
・編集で対応できるレベルのノイズが入っている台詞
などなど……。

こういった類のエラー箇所については、なるべく編集サイドで吸収してしまう(何とかしてしまう)のがオススメです。
「声優のサークルなんだから、リテイクし放題なのでは?」と思う方もいるでしょう。
私自身が運営するサークル作品でも、実はセルフリテイクはほとんどしていません。

なぜ編集で吸収すべきなのか?

なぜか?というと……
リテイクにて新録したデータを合わせた時に、いまいち旧版データとなじまない…かみあわない…みたいなことがままあるからです。
バイノーラル収録の場合は特にそういったことが多くあります。

トータルで聴いた時に満足のいく作品にさえ仕上がっていれば良く、売上に影響するレベルであるかどうかを基準に置くと、おのずと本当にリテイクが必要な箇所は限られてくるものです。
自分自身でも音声作品を作り販売している私自身が思いつくのは……
・ストーリー上重要な台詞である部分
・編集で対応しきれないレベルのノイズが混入している台詞
です。

基本的には、なるべく編集で対応しきってしまうというスタンスで音声作品を作っています。
なぜならば、
・その方がリテイクにかかる費用も発生しない
・リテイク納品までにかかるリードタイムも発生しない
・"リテイクしたものと差し替える労力・コスト"に対してのリターンの少なさという無駄がない
からです。

※声優運営サークルであっても、いきなり収録できるわけではなく、リテイク箇所の洗い出しと台本づくり/機材準備/収録前の準備で声づくり/その上で収録……といった一連の流れの工数は馬鹿になりません。

”何もかもを完璧に……”との戦い

気持ち的には何もかもを完璧に、とやりたくなるのは理解できます。
私自身、その欲望との戦いを嫌というほど日々やっています。

神は細部に宿るなんていいますから、細部にこだわることこそ正義。
実際なんとなく漠然とそう思っていたと思います。
けれども、よく考えてみたら、リテイクに関しては神が宿るどころか神から遠ざかることのほうが多いものです。
※細部に拘る=やり直し、リテイク。

そこで、「いかなる場合でも善なのか?」を再考してみました。

こうした状況に陥ったとき、労力やコストがそれなりにかかったのにも関わらず、作品を通しで聴いたときの全体の満足度や、収益的なリターンがあまりにも少なかったことしかありませんでした。
であれば、より多くの作品をつくったり、発売前に追加トラックを追い込みでつくったりする方が、楽しみにしてくださるユーザーさんのためにもなると思い、最近はリテイクはなるべくしないことを心がけています。

リテイク音源のデメリット

リテイクで新録した部分の台詞には、

・旧録データと組み合わせたときに浮きやすい
・どうしてもなじみが悪くなりがち

という特徴があります。

バイノーラルの場合は特になのですが、
・収録位置、声量、声質、読み上げのリズム
など、すべてを旧録したときの状態に近付けないと、新録したデータの質感や雰囲気が旧版から遠ざかってしまいます。

「そこは声優なんだから合わせろよ」というご意見はご最もなのですが、なかなか100%同じに、というのが難しいというのが現実です。
三次元的な空間で、XYZ軸の全てを合わせた上、声のコンディションも合わせ、演技の憑依も100%一致、というのは変数が多い分、確率的に再現性が低いですよね。

もちろんリテイクの際には、旧版のデータと聴き比べ「これならいいだろう!」というように合わせていきます。
ただ後日聴いてみると「なんかなじまない…」ということは、リテイクがいくつもあるとどうしてもあります。

また、立会無し収録のメリットである、
・台本としか向き合わないので凄まじく集中でき、声優がキャラクターに憑依できる
が崩れてしまうのがリテイクです。一部分だけ切り出し、合わせなければならない変数が多いため当然ですよね。

台詞の抜け漏れ等のリテイク必要箇所、発生します。でも…

どんなに気をつけていても、人間ってミスをするものです。

ぶっちゃけてしまうと、受け取った台本で、ミスがなかった台本はほとんどありません
誤字脱字、ほぼ絶対にあります。

同じように、文量が増えれば増えるほど、収録漏れ・収録ミス、自然と発生します。
それをカバーできるのが、リテイクという手法です。
立会有りの収録の場合、ミスだと誰かが気付いた時点で、その時間内でリテイクに入れるかもしれません。

ただし、立会無しの収録の場合、そうはいかないことはおわかりの通りかと思います。
・リテイクにかかる費用が別途発生する
・リテイク納品までにかかるリードタイムが長い
・"リテイクしたものと差し替える労力・コスト"に対してのリターンの少なさという無駄が起きる

つまり、立会無し収録での制作を行う場合、
・ある程度の収録ミス(全部まとめて)は編集側で対応してしまう
という前提で、制作に取り掛かるのが心構えとして適切だと考えています。

どういった収録ミスをリテイク箇所とすべきか?

一言で言えば……、

「編集で対応することができない、売上に対するマイナスの影響が大きいもの」

に尽きます。

リテイク非推奨の具体例とは?

リテイクガイドラインでは、以下の4カテゴリーをリテイク対応可能としています。

・減衰しきれないノイズが声に載っている場合
・セリフの抜け漏れがある場合
・読み仮名など、明らかに読み方がわかるにも関わらず読み間違えている場合
・明らかにユーザー様が聞いたときにクレームが発生するレベルの誤位置・誤発声・誤読

これらは声優起因で起こりうる、無償リテイク対象の一覧です。
しかし、今回の記事で考察したように、編集で対応可能であれば、その方がメリットが大きいです。
有償無償に関わらず編集で対応できるならば、リテイク可能でもリテイク非推奨となります。

リテイク非推奨例:
・減衰しきれないノイズが声に載っているが、台詞ごとカットしても違和感が出ないシーン
・収録漏れの台詞があるが、前後を含めて少しカットすれば違和感が出ないシーン
・読み間違いがあるが、それが含まれている台詞の塊をカットしても違和感が出ないシーン
・左右が逆で収録されているが、編集で左右反転をすれば問題なくなるシーン

リスクの高いリテイクを防ぐ仕組みとは?

ここまで、立会無し収録におけるリテイクのメリット/デメリットと、リテイク非推奨項目について解説を行いました。
しかし、こう思われている方もいるかと思います。

「でも、この台本を全部読んでもらう前提で報酬を払っているんだから、ちゃんと全部読んでほしい」
「(スタジオ収録と違って)後日でもリテイク費用なしでリテイクしてもらえるなら、してほしい」
「データがなじむかどうかは、リテイクをしてもらった後に編集してみてから決めたい」

人間ですから、かけたコストに対して見合った仕事をしてもらいたくなるのは当然のことだと思います。
そして、そうしてリテイクしてもらったものを全部使いたくなるのも人間の性ではないでしょうか。
残念ながら、そうしてリテイクも含め「全部無駄にしないように使い切ろう」とすればするほど、むしろ違和感が出るシーンが発生してしまい、売上に対するマイナスの影響が出てくるハイリスク方向に導かれてしまうことは想像に難くないかと思います。

何度も言いますが、声優/サークルともに完璧な演技/台本を提供できる確率は100%ではありません。
台本のボリュームが大きいほど、この確率は下がっていき、声優起因/台本起因でのミスが発生するようになります。

「そんなふうにならないよう、お互いが努力すればいい!」
というお声があるのもわかりますし、そうなりたくてなっている人は誰もいないと思います。

しかしながら、質の高い日本の製造業ですらあくまでも生産の工程ではミスは一定の確率で発生することは前提とし、その後の品質管理の工程でミスを弾く、修正することは当たり前にされていることです。
生産工程での不良率を低減させるため、日々の改善活動は行いますが、不良品が一定程度あらわれることは大前提として生産プロセスが組まれています

日々、ある程度は決まった製品群を繰り返し生産し続ける製造業ですら一定の不良率が必ずある一方、[全く違うキャラクター/ストーリー/設定]の一品物である収録データでミスが全く存在しないのは逆におかしいとも言えます。

収録が生産の工程だとすれば、編集はその生産後工程かつ、品質管理の工程を兼ねていると言えます。
どこかで必ずミスは発生するという前提において、全体のプロセス/最終成果物の品質(音声作品でいえば販売データ)を考える方が生産的ではないでしょうか。

本当にリテイクすべき基準を事前に案内する

台本起因(サークルさんに原因がある場合の)の有償リテイク、声優起因の無償リテイク、これまで数をこなしてきました。
正直に言います。そのほとんどが、編集で対応できるリテイク非推奨のものでした。
作品の売上に関わるレベル(つまり、レビューで悪評価が猛烈についたり、満足度が低下する箇所)に関わる重要な台詞については、台本起因/声優起因とも気付きやすいものです。
例として、ストーリーの骨子に関わる箇所が変であった場合は、それぞれの立場で違和感を感じやすいからだと思います。
逆に言えば、あってもなくてもOKな箇所については、サークル/声優とも注意力は低下するタイミングがあって当然とも言えます。(むしろ、重要な箇所もそうでない箇所も同じ注意力を振るのはダメでは…?)

「編集で対応することができない、売上に対するマイナスの影響が大きいもの」
というリテイクは、1年に数回あるかないかというレベルです。

これまで「リテイクはできるなら推奨」というような誤解を与えてしまっていたかもしれないと反省しています。
2022年8月の"リテイクガイドライン"改訂からは、基本的にはリテイクは声優起因のみ(無償で)対応可能とし、旧有償リテイクオプションは廃止しました。
(声優に責があるものについては、流石に「やれ!」と言われてやらないわけにはいきませんから、継続して対応可能としていますが、基本は非推奨です。)

一方、台本が原因となるリテイクは、「編集で対応することができない、売上に対するマイナスの影響が大きいもの」以外は基本的に対応しない形に変更しました。
なぜなら、先にもお話したように、有償リテイクのほとんどは、編集で対応できるリテイク非推奨のものである確率が極めて高いためです。
サークルさんが「編集で対応することができない、売上に対するマイナスの影響が大きいもの」と判断されたものだけに集中できることで、意味のある、かつ質の高いリテイクを行うことができます。

こうしたリテイクについて放置してしまうと、サークルだけでなく演者である声優の評判にも響くリスクがありますので、有償である必要もないと考えています。(旧有償リテイクオプション廃止の理由)

リテイクせずに編集で対応することにインセンティブを持たせる

ここまでの内容に納得していても、「既に報酬を払っているから取り敢えずリテイクさせたい」と思うこともあるでしょう。
やはり、そこは人間の性ですから仕方がないことだと思います。

そんななか、”声優による台詞の収録漏れがあるにも関わらず、毎回編集で対応してくれるサークルさん”がいるのも事実です。
こうしたサークルさんは、リテイク後の繋ぎ合わせの手間暇の価値/コスパをドラスティックに計算しているのでしょう。
しかし、そうした手間暇の価値/コスパを計算し、自分自身に納得させるのはかなり難易度が高いことです。

そこで、テスト的にいくつかのサークルさんに対しては、編集で対応しきれない重要箇所のリテイクのみ だった場合、その次のご依頼の際に数千円を還元する案内を出しました。
つまり、(リテイク推奨箇所以外を)リテイクせずに編集で対応していただけた場合には、割引という数値インセンティブが働くようにしました。

テストの結果、数値でしっかりインセンティブをこちらから表すことによって、対象すべてのサークルさんが、毎回編集で対応してくれるサークルさんと同じ行動をしてくださるようになりました。
またメリットとして、サークルさんからこのような言葉をいただきました。
「これまでミスがないかあれもこれもと探していましたが、本当にリテイクをすべき重要箇所だけを探すことができるようになり、むしろ作品の質が上がりました!」

私自身も、作品の売上に対して全く寄与しないリテイクに割く時間が激減したことにより、創造的な活動により時間を割けるようになりました。
そこで2022年8月の"リテイクガイドライン"改訂からは、正式にこの仕組みを標準プロセスとして実装しています。

・リテイクが可能なものは、リテイクしちゃえ!という方向に誘導しないよう、リテイク推奨/非推奨を区分け
・リテイクをせず、編集対応することに数値インセンティブを可視化し持たせる
という2つの新ルールによって、リスクの高いリテイクを防ぐ仕組みが構築できました。

実は一番最悪なパターンって……?

立会有りスタジオ収録で、その場にいる全員がリテイクすべき場所をスルーしてしまって、収録を終えてしまったとき。
話を聞く限り、実はコレが一番ヤバいのではないかと思っています。

というのもスタジオというのは事前予約をしないと使えないので、同じ環境でリテイクしようにも、すぐには出来ないですよね。
ここ数年の感染症との戦いのことを考えると、突然関係者の誰かやスタジオがNGになることもあるでしょう。
やろうと思ったらまたお金と膨大な時間がかかります。販売機会延期のインパクトはいかに……。

スタジオでのリテイクが出来ないから、仕方なく宅録でそこだけやるなんてこともあるそうです。
しかし、音質が良いとか悪いとかはさておき、録った場所、機材、すべてが違うわけですから、まったく同じ質感のデータには当然なりませんよね。

こうしたことを考えると、実は立会無しでも有りでも、リテイクは積極的にしようとするものではなく、どうしてもしないと対応できない箇所に限定してするものではないでしょうか

まとめ

立会有りであれば、その時間内で気づくことができればサッとリテイクできてしまう収録。
これが費用が安い立会無しの収録(or 立会有りでも後日気付いた場合)となると、依頼側も声優側もリテイクにはかなりの労力と時間とコストを要します。
その割にリターンが少ないことのほうが多い、リスクが高い、それがリテイクというものではないでしょうか。

この前提、「実は収録サイドしかよくわかってないのでは!?」と思い、改めて考察、執筆しました。
本能的な部分と理性的な部分で考えが対立してしまう領域のため、頭ではわかっても心はそう言わない……ということもあるかもしれません。
それでも、創作活動における気付きの一助となったならば幸いです。
快適でスマートな制作活動を目指して、お互いがんばりましょう!

余談

そもそも、よく考えてみたらリテイクって、創作物すべてにおける共通の課題かもしれません。
音声作品のリテイクに関わらず、イラスト/説明文/デザイン/何らかの創作物すべてにおいて、「やり直しをさせるべきか」というのは、慎重にその範囲を検討すべきものだと思います。
音声作品の"声"では唯一のリテイク推奨は「編集で対応することができない、売上に対するマイナスの影響が大きいもの」に限定されますが、イラストは別の基準があることでしょう。

ルールが曖昧とも言われるクリエイターだからこそ、「やり直し可能な範囲」を各々が明示することには価値があるのではないかと思います。
普通、納期であったりリリーススケジュールを立てて制作しているわけですから……。時間も予算も無限ではありません。
いきなり超えちゃいけないラインを超えてしまって、トラブルに突入するかもしれないリスクが発注者にもあります。
そう考えると、ある程度はルールを明示しておくことが必ずしも顧客離れを招くわけではないかと……。